銀河の祭




『あなたは地球代表者として、きたる5月23日に催される銀河祭に、出席される事が決定しました』


 こんな文面の葉書を初めて見たのは、K氏が一週間の出張から帰ってきたその日、山のような新聞紙と
郵便物を選り分けている時の事だった。
 K氏はその奇妙な葉書を手に取り、裏返したりまた元に戻したりを数回繰り返した。
「なんだ、これ? 銀河祭?」
 文面の最後には、会社のマークだろうか、目玉のついた星をバックに会社名と電話番号が載せられていた。
『スター・ユニバース株式会社』確かに、地球の日本語でそう書かれている。電話番号を見たところ、恐らく
東京の会社ではなかろうか。

 K氏は知らず知らず鼻を鳴らした。「地球代表」で「銀河祭」とは。何の冗談かは知らないが、自分はこん
なものに引っかかるほど世間ずれはしていない。
 大方、同じ文面の葉書を何百通とばら撒いて、ノコノコ出席してきた奴をカモに、高い商品でも買わせるつも
りなのだろう。悪質業者がよく使う、しかし使い古された手口だ。

 K氏は葉書をゴミ箱に投げ捨てると、それきりその葉書の事を忘れた。



 次に葉書が来たのは、新人の研修で一ヶ月ほど家をあけていた時だった。K氏がその葉書を見つけたときには
その回の銀河祭はすでに終わっていた。

 よほど手の込んだ悪ふざけかと思い、内心穏やかではいられなかった。だが、これも心理作戦のうちだと結論
づけたK氏は、無造作にしかし荒っぽくその手紙をゴミ箱に投げ入れた。



 そんなK氏もおかしいと気づいたのは、そんな葉書が届くのが10枚を数えた頃だ。
 初めは社交辞令と簡単な日時、場所の指定のみだったのだが、数が片手だけでは数え切れなくなったらへんから、
なんだか妙に葉書の文字が切迫しているように思えてきた。

「今度は○月・・」や「必ず出席・・」などの文字が文面で踊っている。だが、このような言い回しに負けては今の世の
中を生きてはいけない。しかも、葉書が来るのは決まってK氏が家を留守にしている時か、仕事がどうしようもなく
忙しい時だけなのだ。

 昇進がかかっている大事なこの時に、そんな訳の分からないパーティーに出席している場合ではない。

 そう思っていた葉書を無視し続けるK氏の元に、『スター・ユニバース』と名乗る会社から電話がかかってきた。
 相手は妙な猫撫で声で、K氏にたどたどしく自己紹介をした後、さっそく本題に入った。

「わが社からの葉書は届いておりますでしょうか。いえ、こちらからはちゃんと送らせていただいているので
すが、郵便事故という可能性も・・・」

「ちゃんと届いているさ。 ただ、なんだねあの奇妙な祭は。いきなりあんな葉書がきたって、疑うのが当然
だろう」

「ああ、そうですよね。確かに世間ではあのような葉書を送りつけて、詐欺まがいの行為をする会社もござい
ます。ですが、いいですか?そうと認めたうえで言わせていただきますと、私たちは本物ですよ」

「何が本物か。本物の宇宙人だとでも?」


 晩酌の時にかかってきたその電話にいらいらしながら答えていたK氏の不機嫌が、電話越しに通じたのか、
相手は少し声のトーンを落とした。内緒話をするようなあの空気の抜ける音を立てながら、相手の男は話し続けた。


「そう、本物でございます。私ども一同、あなたが来るのを心待ちにしておりますれば」

 K氏は今にも受話器を置きたい衝動に駆られながら、首の後ろを掻き毟った。話せば話すほど、相手の胡散
臭さが強まってきて、もう相手にするのも馬鹿らしくなってきたのだ。

「代表ならば、それなりの待遇をしてくれてもいいんじゃないか? リムジンで出迎えとかね。大切な祭なのに、
お知らせが葉書一枚じゃ選ばれた気はしないよ」

「その件につきましては深くお詫びいたします。なにぶん、まだ地球は銀河連合に加わっておりませんので、目立つ
ような事はしてはいけないのでございます。こちらとしては、偽名の会社の名を書いた葉書が精一杯でして・・・・」

「じゃあ歩きでもいいから迎えに来ればいいだろう、まさか君、見た目が蛸とはいわないよね?」

「それが・・・われわれはめったな事では外出をしないのです。地球の紫外放射が強すぎて、我々には外を歩く
のがまるで火の中をあるくようなものでして・・」

「へえ、外に出れないのかい。随分と巧妙な言い訳だね」

「我々は正真正銘の銀河連合の使いです、今、地球には銀河系から来られる大使の船が集まってる状況で、もしあ
なたがこの話し合いの席に出席していただけるのでしたらに船に乗ることだってできますよ、火星や、土星、冥王星
などに旅行に行った事はありませんでしょう?  敵の目を誤魔化す為のホログラムを抜けると、そこはもう、夢のような
世界でして。早く地球も連合に加わり、この技術を互いに切磋琢磨していこうとしている次第でございます」

 相手もいよいよボロを出してきた。火星だって? 土星だって?
 銀河系には生物の住んでいる星は地球しかないのは幼稚園の子供でも知っている。今更、SF交じりのそんな
説得は、大人になった自分には無意味だろう。


「そうかい、じゃあ私はその役から降りる事にするよ。そうすりゃ新しい奴を選べるだろ? とにかく、私のところに
葉書を送っても無駄だよ。行く気は全く無いからね。 さっさと私の事は諦めて、他の客に葉書を送ったらどうだね?
葉書だってタダでは無いんだろうに」

「そういうわけにはいきません! あなたは地球人代表として選ばれたのですよ。公平をきっし、厳選に厳選を重ねた
結果、40億人の中からあなたがただ一人選ばれたのです。 なのに他の方を代表にしては、それこそ不法というも」

 K氏はそこで電話を切った。





 ツーツーと無常な音を立てる受話器を握り締め、男は悲痛な顔で背後を振り返った。

「やはり、来れないようです・・・」
 顔を向けた先にいた者たちは、気落ちした様子でその報告を聞いた。目の前にあるのは、どこの王様も食べた事の
無いようなご馳走に、見たことも無い鮮やかな色のフルーツ、血のように美しい赤色をしたワインなどだ。

「そうか、今度こそと思ったのだが。仕方が無い。 諸君、地球代表のことはもう忘れよう。それよりも喜ばしいニュースが
ある。今回銀河同盟に新しい仲間が入った。火星の衛星フォボスと、地球の衛星、月だ。 これからは銀河の仲間として
互いに協力し合おうではないか」

 と、主催者である火星の代表者が、異様に背の高い者と、赤ん坊よりも小さなその仲間を紹介した。
 その場にいるものは、喝采を上げ新しい仲間を迎え入れた。人間にしては大きすぎるもの、小さすぎるもの、長いもの
短いもの平たいものなど、およそ人間には似ても似つかないものが幾人も、その明かりに照らし出された室内に集っていた。

 そして、話し合いの後の宴も終わり参加者全員に大きな宝石の付いたブローチが記念品として配られ、祭りは終了した。
最後の挨拶に火星人が集まった一同をぐるりと見回して、両手を上に掲げた。

「さて、これで「銀河祭」を終了いたします。本拠地の住人である地球人が参加できなかったのは残念ですが、また別の
機会もあることでしょう。地球が早く銀河同盟に加わる事を祈ります。
 さて、次の祭ですが、周期から考えて太陽が一回りした年、冥王星で行います。 ですが、銀河同盟に入っている以上、
我々は兄弟も同義です。 困った事が起きた時はいつでも火星本部に連絡してください。
それでは、みなさまお気をつけてお帰りください」

 またしても拍手喝さいの中、火星人は台から降りた。

 そして銀河の星の住人達はそれぞれの星へと帰っていった。



 その日、地球から出て行く宇宙船で、星空は流れ星さながらの天体ショーに彩られた。
 天文学者たちはそろって首を捻り、K氏もテレビの解説を見て不思議な事もあるものだと、安い缶ビールを煽る。



   地球が、この同盟に入るようになるのは、まだまだ時間がかかるようである。




 
1200を踏まれた是枝 弘サマのリクエスト、「太陽系をあげた大きな祭」です。
・・・・・小さくまとまってしまった感じですね。もっと花火どっかんしたかったんですが。
でも、作ってる途中で、『宇宙人の侵略!人間皆殺しの叫宴!〜そのときあなたは〜』になりかけ(センスなし)、軌道修正に苦労しました。

この話、最近読んだ本「ぼっこちゃん」(星 新一)「人間そっくり」(安部 公房)にかな〜り影響されている感じです。


で、ラストどうしようか迷ってる時に気分転換に同じ題で詩、書いてました。
詩というか、言葉の羅列でしかないんですけど;
見たいと言う奇特な方はこちらからどうぞ―→マツリ


お題で書いたのは初めてで、苦労したけど楽しかったですv アップが遅れてすみません。
リクエストありがとうございました!

是枝さんの素敵サイトはこちらから―――→