戦え!聖煌レンジャー!











 私立聖煌学園には、地下にあって、一部の生徒にしか知られていない秘密の空間があった。

 グラウンドがすっぽり入るくらい広い施設がそこにはあり、どこかの軍用基地のようにずらりと並ぶ小型戦闘機や人型の戦闘マシ
ーンが配置されている格納庫。膨大な量のデータが詰め込まれた機関部、仮眠室や食堂など様々な部屋が設置されていた。

 そして、今。施設の中でも一際大きな部屋である司令室では、緊急を告げるアラーム音が鳴り響いていた。

「緊急警報! S地区に邪者怪人が出現しました!」

 サポート役の生徒全員が慌しくキーを叩き、壁に埋め込まれた膨大なコンピューターを駆使して、中央部にある大きなモニターと
その横手にある無数の画面に映像を映し出した。

 その映像を見て、部屋の中心部にある椅子から、ゆっくりとある人物が立ち上がった。

 つり目で、端正な顔立ちをしている男性、茶色の髪を靡かせて悠然と立つ彼は、肩にかかるマントごと手で宙を払い、よく通る凛
とした声で言った。

「直ちに聖煌レンジャーを向かわせろ!!」

 学校の中では知らないものはいない。彼は誰であろう、この聖煌学園の数学の教師・鳴海彰吾であった。総司令官の声に、部屋
にいる全員が、「了解!」と一斉に答えた。

 正面の巨大モニターには、繁華街で暴れる、ビルよりも背の高い恐竜型の着ぐるみを着た黒髪の青年の姿があった。冷たい笑み
を浮かべながら足元の小さな人間を見下ろす怪人は、着ぐるみを着ているためかあまり怖そうに見えない。

 彼は得体の知れない怪しげな液体を手に持つビンから辺りに撒き散らしていた。

「あれは、タイプ4、京介ですね。人体実験が趣味で、愛情表現が歪んでいる怪人です。ちなみに顔はかなりいいですっ」

「あの液体は?」

 総司令官・鳴海の言葉に、活発そうな雰囲気を持つ少女―――梨花は指をカタカタと動かして、パソコンからファイルを出した。

「ああっ! あれは触れたものをジャッカーにする液体です!! どうしましょう総司令」

 その言葉を肯定するように、モニターの中では、撒き散らされる液体を浴びた人間が次々と黒い塊になっていった。ジャッカーと
は、邪者怪人の中で一番下っ端の怪人であった。あの塊が割れてジャッカーが生まれれば、人間はもう邪者怪人の言いなりの人
形になってしまう。

「緊急事態だな。 仕方がない、聖煌ピンクも出動だ。六人で処置に当たるように」

『はいっ。 聞こえた?出動よ』

「わかっとるって、梨花っち」

「了解。何とかジャッカーが生まれる前にタイプ4を倒さないとね・・・」

「よっし! ひと暴れしてくるか」

「帰ってきたら、丁度お茶の時間かな」

「・・・無理はするなよ、ピンク」

「うんっ、頑張る! それじゃあ、出撃します!」

 それぞれが一言ずつ司令室へ返事をして(約一名を除く)、黄色、緑、赤、白、青、ピンクに色分けされた小型飛空挺が、地下の格
納庫から出て、飛び立って行った。

 目指すは、悪の怪人のいる繁華街。

 そう、聖煌学園の地下の部屋。ここは、世界の平和を守るために作られた、地球防衛軍の秘密基地であった。





「いい? 一人3.2個ずつだよ」

 秘密基地にある聖煌レンジャー専用の控え室。ロッカーやベンチの置かれた簡素な部屋、その中央の机の上には、厳密な計算
が行われたと思われるメモと、可愛い袋に入った16個のクッキーが置いてあった。

「抜け駆けなしやで」

「ああ」

 油断のない目つきで全員が視線を交わした次の瞬間、一斉にクッキーへと手が伸びた。

 それぞれに渡された紙皿の上に自分の分のクッキーを取る。一つだけ残ったのは後で全員で5等分にする予定だ。

 一口サクッとクッキーを食べて、一転して和やかなムードが場を支配した。



 事の起こりは30分前。出撃したものの、結局邪者怪人を逃してしまった我らが聖煌レンジャー。とりあえず、ピンクの特殊能力で
ジャッカー化しかけた人々を元に戻して帰還してきた。

 基地内待機の命が下されて小型飛行艇から降りたレッドは、息を吐いて被っていた赤いヘルメットを外した。

 腕時計の形をしている変身ブレスのボタンを押すと、見る間に身を包んでいた赤い服が腕時計の中に吸い込まれるようにして消
え、普段着に変わった。原理はよくわからないが、世の中には知ってはいけないものがある。気にしてはいけない。

 彼が黒い髪をかきながら緊張と疲労によるため息をついた時、後ろから軽く肩を叩かれた。

「お疲れ様」

 同じように変身を解いていた聖煌ピンクが、疲れなど吹き飛ばしてくれる笑顔でそこに立っていた。

「おう、ピンクもお疲れ」

 手をあげて挨拶すると、彼女は持っていた鞄からラッピングの施された袋を出してレッドに手渡した。

「昨日焼いたの。よかったら皆で食べてね」

 よかったらというか、何があろうと絶対食べるって!!!!

「サンキュー」

 できる事ならピンクの細い手を握って勢い任せで叫びたかった言葉を飲み込んで、レッドも笑顔で返した。

「これから梨花とお茶するの」

「そっか。よろしく言っておいてくれよ」

「うん。それじゃあ」

ピンクはとにっこり笑って、その場から立ち去っていった。

 その場にぼんやり立って、彼女の後姿と袋を交互に見ていたレッドは、ふと言い知れぬ殺気を感じて後ろを振り返った。

「レッド・・・・ピンクと何話してたんだ?」

 絶対零度の気配を身に纏った聖煌ブルーが、鋭い目つきでそこにいた。

「羨ましいだろ。 クッキーもらったんだぜ」

 にやりと笑って言うと、さらに殺気が増した。ブルーは金髪に右目が蒼という絵に描いたような美少年なので、本気で睨まれると
ちょっと、いやかなり怖いが、今は嬉しさの方が上回っているのであまり気にならない。

「何でレッドなんかに・・・」

「なんかってどういう意味だよ!?」

 ブルーの呟きに地団太を踏んだレッドの肩に、ぽんと手が置かれた。

「ていうか。ピンクは『皆に』って言ってたで?」

 振り返ると、ムードメーカーである聖煌イエローが、にこにこと笑ってそこにいた。関西弁で軽めな口調だが、その長身と相まって
笑顔の奥には底知れぬ威圧感があった。

「僕なら、ぼーっとせずにすぐ隠すけどなあ」

 レッドの横を、聖煌グリーンがボソリと呟いて通り過ぎる。一目見ただけで分かる、利発な眼をした少年は、そのままスタスタと控
え室に向かって歩いていった。

「じゃあ、戻って皆で食べようか」

 色素の薄い髪の不思議な雰囲気のある聖煌ホワイトが和やかに言った言葉に、レッド以外の全員が頷いた。

「・・・っく、てめえら、じわじわと責めるんじゃねえっての!!」



 で、今に至るわけである。

「さすがピンクの作ったクッキーやで。 めちゃ美味い」

 さくさくとした歯ごたえに、甘さも丁度よく焼き加減も完璧。 なにより、ピンクの手作りなのだ。不味いと思うわけがない。

「なんていうか、もったいなくて食べらんねーな」

「じゃあ、俺が食べてやるよ」

 じーっと星型のクッキーを眺めて呟いたレッドの手から、ひょいとブルーがクッキーを奪って、そのまますばやく口に入れた。

「あ、おい!!なにするんだよ!?」

「さっきのお返しだ」

「一人3.2個ずつって言ってるだろ!」

 クッキーをごくんと飲み込んだブルーに、レッドは殴りかかった。たかがクッキー、されどクッキーである。

 そもそも、これは残り1つを五等分するという、ありえない平等さを追求しなければならない程のクッキーなのだ。1つ丸ごと奪わ
れるなんて理不尽があってはならない。

「あーもー、喧嘩しないで。 ブルー、一個レッドに返しなよ」

 立ち上がって胸倉を掴み合っている二人を余所に、呆れた声を出しながらグリーンはブルーの取り分からクッキーを一つ、レッドの
方へ入れた。

「これで一緒だろ。ったく、子どもなんだから」

「いやあ、でも気持ちは分かるで。なんといってもピンクの手作りやしな」

 レッドとブルーが睨み合ったまま席に着いて、一拍おいてから、ふいにホワイトが口を開いた。

「でも、数は結構半端だったね。 もしかしたら、実は余計にあげたい人がいたってこともありえるよ」

 その一言で、部屋の中を沈黙が支配した。

 クッキーの数は16個。ボーイズは5人。15個にすれば一人3つずつで割り切れるのに、なぜ、ピンクは一つ余分に入れたのだろ
うか・・・・・?

「そういえばさ、戦隊ヒーローものっていえば、目玉はピンクとの恋愛じゃないか?」

 レッドがふと思い出してそう言った。

 彼の見ていた戦隊もののテレビシリーズでは、確かに戦隊内の恋愛があったはずだ。ただし、それはサイドストーリーであって、
断じてメインではないのだが。

「・・・・そうだね、確かに」

 昔、結構見ていた戦隊モノを思い出して、グリーンは口に手を当てて考え込む。

「じゃ、この場合は、麗しのピンクと恋仲になれるのは一体誰になるんだろうね」

 ホワイトの言葉に、またしても部屋の中が静まり返る。

 だが先ほどの沈黙と違うのは、今この場が火花散る一触即発状態に様変わりしたことだ。

「・・・やっぱ、基本はレッドだろ」

「いや、確かブルーもそういう設定があったはずだ」

「そうだね、基本はリーダーのレッドと副リーダーのブルーだったと思うよ」

「ちょっと待った」

 レッドとブルーが睨み合いをしている傍で冷静な補助台詞をいれたホワイトに、グリーンが待ったをかけた。

「それはあくまでも、リーダーって役割からきてるんだろ? じゃあ、この場合は映研とこの戦隊のリーダーである僕に当てはまるん
じゃない?」

「「「そんな地味な色のリーダーがいるかっ!!」」」

「地味って言うな!! 色は関係ないだろ!!」

 レッド、ブルー、イエローから一斉に避難を浴びたグリーンは、三人をギロリと睨み付けた。

「表にはでないし話にもちょっとしか出てこないけど、僕、結構苦労してるんだからね、個性いっぱいで自己中な君らをまとめたり、
総司令と密かに作戦の打ち合わせしたりとか。 いつも自分のことだけしてればいいやつに言われたくない」

「まあまあ、そうカリカリすんなや」

 ぽんとイエローが自分の膝を軽く叩いて、立ち上がった。

「グリーンが部長でリーダーなら、俺は副部長やし。 つまり、ピンクとワクワクドキドキ恋愛体験できるのは俺かグリーンかって事
で」

「イエローとグリーンのタッグって、奇妙以外何者でもないだろ」

「カレー大好きイエローのくせに、何言ってるんだか」

 ぽつりと呟いたレッドの言葉を聞いて、イエローはすばやくレッドの首を押さえて思いっきりチョークをかけた。

「ぐっ、なんだよ急に」

「ほう、ならなんや? レッドはハバネ○好きか? じゃあ、一袋一気食いしてもらおうか!」

「ちょっ、やめろって!! きっと胃に穴が開く!」

 どこからかあの見るからに辛そうな袋を取り出したイエローに、さすがにストップをかけようとしたグリーンが、あることに気づいた。

 さっきまで確かにいたはずのホワイトが、この控え室から姿を消していたのだ。

「・・・いつの間に」

「トイレか?」

「全然気づかんかったな」

「ギブ!ギブ! そろそろ離せ!!」

『・・・・・・・・・・・・・あのさー』

 控え室に備え付けてあるマイクから、よく見知った声が聞こえてきた。ホワイト失踪に首を傾げていた四人が、おもむろにそちらを
見る。

「おお、りかっち。どないした?」

『司令官はもう放っておけって言ってたんだけどね・・・・・さっきから出撃命令出てたの、気づいてた?』

「「「「は!!!???」」」」

 がばっと、一斉に各々の腕に嵌められた変身ブレスを覗き込む。通信機にもなるそれは、確かに出撃命令が来ていた事を示して
いた。話に夢中になっているうちに、どうやら見逃してしまったらしい。

「そ、それで・・・どうなったの?」

『ちゃんと命令に気づいたホワイトと、ピンクが「二人で」出てったわよ。私とのお茶の途中でね』

 二人、というところをやけに強調されて、四人は完全に動きを止めた。

 道理で途中からホワイトが話に入らなかったわけだ、ピンクと二人きりになるチャンスとばかりに、自分たちに内緒で優雅に控え
室を出たに違いない。

「い、今からでも―――――」

『もういい。やる気のないやつは帰れ。 行っても足手まといだ』

 マイクから、冷やかな鳴海司令官の声が聞こえてきた。思わず背筋を伸ばしてしまうような、低い怒りを抑えた様な声だった。

「なんだとっ、足手まとい!?」

 例によってつっかかるレッドを無視して、司令官はさらに言った。

『出撃命令に気づかずに、騒いでいるような隊員に裂いてる時間はない』

 プツッ、と音が途切れた。取り残された四人には自然とホワイトへの恨みがこみ上げてきた。

「ピンクと二人・・・・」

 うつむき加減で殺気に眼を光らせながら呟くブルー。

「ホワイト、ぜってえ許さねえ・・・」

 チョークをかけられた首を押さえながら、歯軋りするレッド。

「これはお仕置きせな気がすまへんな」

 髪をかきあげて、腕組をしつつあくどい顔で何かを考えるイエロー。

「帰ってくるまでなんて悠長なこと言わずに、今からでも袋叩きに行こうか」

 指を鳴らしながら冷たい笑みを浮かべるグリーンの言葉に、それと同じくらい不気味に微笑んだ三人は、残りのクッキーを口に詰
め込んでから、控え室を飛び出していった。





 戦え聖煌レンジャー!

 負けるな聖煌レンジャー(主に鳴海司令官に)!

 学園の平和は君たちにかかっている!!多分。




「っていう夢を見て思いついたのだがね」

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

「どうかな、ちょっとやってみたくないかい?」

 朝の職員会議。

 『学校の地下に秘密基地を!』とでかでかと書かれた企画書を前に、聖煌学園の優秀な教師たちは皆、頭を抱えていた。

 学園長の器のでかさと、物事に柔軟に対応する姿勢、とんでもないことをしでかす茶目っ気にはもう慣れているが、まさか、こんな
事を発案するとは思ってもみなかった。

「楽しそうだろう? 学校の地下に秘密基地なんて」

「法律の範囲でやるのは勝手です。 でも、それに私と生徒を巻き込まないで下さい」

 頭痛のする頭を手で押さえて、数学教諭の鳴海先生が怒りを必死に堪えた低い声で抗議した。誰一人声が出せなかったもの
の、思いは同じらしく何人もその言葉に頷いた。

「鳴海司令官、似合ってると思うんだけどなあ」

「・・・・・・・・・・・これは却下して、次の議題に入りましょう」

 帰ったら何と文句を言おうかと、議題が移ってもまだ未練たらしく企画書を見る学園長に鳴海先生は静かな殺気をぶつけた。




「ねえ、先生、なにかあったのかな?」

「僕、質問に行ったら、睨み付けられたんだけど・・・」

「う〜ん、なんやろ。機嫌ごっつ悪いなあ」

「まあ、そういう日も人間 必要だよ」

 そんなやりとりがあったとは露知らないボーイズと姫は、いつもよりも数段不機嫌な鳴海先生に一日中首を傾げてましたとさ。


                                        完。

すみません×100。全員キャラ壊れてます・・・・「SB」ファンに殺される(がたがたがた)
レッド:たっくん
ブルー:健人
イエロー:祥ちゃん
グリーン:准くん
ホワイト:王子様(笑)
ピンク:眞姫ちゃん です。 私が、”ぽい”なと思った色にしてしまいました;
とりあえず、職員会議で名前を出すのはやめておこうという紳士の配慮から、実名抜きです。(何言っているんだ)
かなり昔に、美佑さんのところのオエビで、聖煌ピンクの眞姫ちゃんを描いてから、ずっと書きたいな〜と思っていた話です。
て、いうか、美佑さんにもお見せしていいんでしょうかっ!?もう謝罪するしか・・・。

頭の中平和で、どうしよう・・。

貰ってくださってありがとうございました!!